本について語りまSHOW

読んだ本について独断と偏見で語っていこうと思います。

~2人のヴィーナス、そして、真贋~原田マハ 『楽園のカンヴァス』

『アートを理解するということは、この世界を理解する、ということ。アートを愛するということは、この世界を愛する、ということ。』(本文 引用より)

どうも、aruhonzukiです。

はてなブログで書評、というと偉そうですが、本について詳しく書かせていただくのは初めてです。

ここでは、本を読んで思ったことなどについて、ちまちま独断と偏見で書いていこうと思っています。

第1回目は原田マハさんの『楽園のカンヴァス』です。原田マハさん作品はこれが初めてですが、絵画をモチーフにされる方であると知り、興味を持ち、この作品を手に取りました。※ここからネタバレ含みます。まだ読了しておらず、今後読もうと思ってる方はブラウザバックしていただくことをおすすめします。

1.ヴィーナス~2人の『ヤドヴィガ』について~

まず話しておきたいのが、2人の『ヴィーナス』について。言わずもがな、先に出てくるのは、もちろんアンリ・ルソーにとってのヴィーナスであった、ヤドヴィガではありますが、実はもう1人隠れていると私は思うのです。

それが、ティム・ブラウンのライバルであり、恋した相手である、早川織絵…もといオリエ・ハヤカワです。

①登場の度、誘惑の香りの描写

これはオリエ・ハヤカワに限ったものになりますが、特に、序盤のシーンでしつこく出てくる「南国の甘い香り」の言葉。ヴィーナスというよりどちらかというと魔性の女であるかのように思わせる表現ですが、その魅惑の香りを匂わせてこそ、男性を惹き付けるヴィーナスたる所以であるかのように感じられます。

②彼らが行き詰まる度現れ、癒しを与える

まずはヤドヴィガの場合。『第1章 安息日』で描かれた、ボンボン売りをした後疲れ果てて、窓を覗いたアンリ・ルソーの目に映るヤドヴィガ。彼女の姿を目にしたり、話を交わすだけでも癒しを得ている様子は、まさにヴィーナスに微笑まれた男のようです。その後もヤドヴィガか意図せずともアンリ・ルソーにとってのヴィーナスであった記述が続いていきます。

そして、オリエ・ハヤカワの場合。ポール・マニングに脅迫めいた提案を受けてしまい、憔悴しきったティム・ブラウンを連れ出し動物園へと誘い出す彼女。動物園でオリエとゆったり話を交わすことにより彼の心は落ち着いていきます。また、思わずオリエの真実をコンツから聞かされ動揺していた彼に、自身の口から真実を告げ、心から微笑んだ彼女。それを見て決心がつき、それから、本当に心から彼女の幸せを願ったと後にティムは語ります。(また、彼女と2人で過ごすこの時間が楽園であったみたいなことも書いてありましたしね。「夢」の楽園にいるヤドヴィガと一致するということです。)

また、キャラの立ち位置で見ても分かると思います。ボンボン売りをしながらひたすら絵を描くだけの「日曜画家」の後、有名画家へとのし上がっていったアンリ・ルソーと、洗濯女であり人妻であったヤドヴィガ。そして、「アシスタント」の名を棄てるべく、勝負を受け、見事チーフ・キュレーターとなったティム・ブラウンと、一図書館の監視員であり人妻の早川織絵。関係性構図がよく似ていると思いませんか?

癒しを与え、心を動かす存在。

まさにこの2人の女性は、彼らのヴィーナスであったに違いありません。

2.真作、贋作~ハリボテ2人の闘いとその決着~

そしてもうひとつ語っておきたかったのが今作での闘いのテーマでもあった「真作、贋作」について。

これは「夢」と「夢を見た」についてのテーマでもありましたが、私はライバルであった2人、ティムとオリエのことであるようにも感じました。

地方の一美術館の監視員でありながら、実は昔美術史論壇を賑わせた才女のオリエ・ハヤカワ。

一流キュレーターを名乗っているが、実はアシスタントに過ぎないティム・ブラウン。まるで「真作」と「贋作」を意識したかのようなライバル関係ですね。

また、最後の「夢を見た」の講釈シーン。最初はオリエを思い、贋作だと偽ったティムでしたが、オリエが思わず自らの研究者としての立場を失ってまで、「情熱がある…これは真作です」と心から本物だと言い切った態度につられ、「これはアンリ・ルソーの最高傑作だ」と本物であることを主張した彼。結果、彼の講釈の方が研究者として筋が通っており面白いと認められ勝つ様は、彼が偽物のトム・ブラウンとしてでなく、研究者としてのティム・ブラウンであることを認められたように思います。そして、散々、真作か贋作か問われた「夢」と「夢を見た」も、後に両方の画家の「真作」であるかのように示されていることからも、2人のハリボテであった彼と彼女はちゃんと2人とも本物であったのだと語っているかのようです。

……とまぁ、長々と拙く語りましたが、この作品からはたくさんの「情熱」がぶつけられているように思いました。本当にその一言に尽きます。

今後も、原田マハさんのアツい絵画×小説作品を読んでいきたいと思いました。

ありがとうございました!